僕はいつも通りの日常を送る

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「どうです? 思い出しましたか?」 「いやぁ、それがさっぱり……」 ヒヨルさんをナンパしていたことも、猫を助けたことも、事故の直前のことが何も思い出せない。 おかしい。俺がヒヨルさんみたいな絶世の金髪美女を忘れるなんて、ありえない。もしや撥ねられた俺の近くを偶然エスパーが通りがかって、俺の記憶を消したんじゃないか? そんな馬鹿みたいなことを考えていた俺の視界の隅にヒヨルさんの姿が映った。 顔を伏せて、肩が縮こまっている。事故の説明をしてくれていた時より小さくなったように見える。 暗くなっている金髪美少女。素直に可愛いと思った。 ……あっ、まずい。口がにやける。このニヤけ顔を見られたら気まずい空気になる。 俺は片手で口元を隠しつつ、気を紛らわせるために話題を振った。 「そ、そういえば、ウチの家族の姿が見えないんですが、まだ来てないんでしょうか?」 「いえ。少し前まではいらっしゃいました。今は着替えを取りに家に戻られています」 「そうでしたか。……」 無言タイムがスタート。静かに時間だけが過ぎていく。 結局気まずい空気になってしまった。会話をしようにも、何を話していいのか分からない。 それにしても綺麗な金髪ですね。俺、金髪美少女が大好きなんですよ。特にあなたみたいなグラマラスな方はドストライクですHAHAHA☆  ……なしだ。なさ過ぎる。この空気でそれを言ったら確実にスベる。というか言える空気でもないし! やっぱりここは『気に病まなくていいですよ☆』とイケメンフェイスで言ってあげるべきか、と考えていた時だった。 「あのっ」 先にヒヨルさんが話しかけてきた。ヒヨルさんは不安を乗せた声で俺に訊いてくる。 「お身体はどうですか? どこか痛かったり、違和感があったりしませんか?」 「大丈夫ですよ。ほら、この通り」 イケメンフェイスで言いながら腕や足を大袈裟に動かす。ベッドの上で跳ねてもみた。 「この通り健康体です。撥ねられたって言うのが嘘みたいですよ、なっはっは!」 「………」 「はっは……えっと。そういう訳ですからあまり気を落とさないでください」
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