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元気アピールをしたのに、ヒヨルさんはちっとも嬉しそうじゃない。
俺が元気じゃない方が良かったのか? 大怪我していればよかったのに、って思っているとか? ……いいや。この美しい聖母のような金髪美少女に限って、そんなひん曲がった考えを持っているはずがない!
きっと事故を目撃したショックがまだ抜けていないんだ。
「ヒヨルさんが落ち込むことないです。俺が勝手に猫を助けようとして事故っただけですから。むしろ事故に遭ってよかったです。事故のおかげであなたのような美しい人が俺を見舞ってくれたんだから」
とまあ、そんな歯の浮く台詞を言って、さらに続けて、
「何はともかく、終わったことをいつまでも気にしてもしょうがないですよ。俺はこうして生きているんだから万事オッケーってことでいいじゃないですか」
「……っ」
? 何だ。
今ヒヨルさんの方が怯えたように震えた。かと思ったら、
「……、ごめんなさい」
急に俺に謝ってきた。それも何度も、涙を流しながら。
どうしてヒヨルさんが泣いて謝っているんだ? 俺はヒヨルさんが落ち着くのを待ってから訳を訊ねた。
ヒヨルさんは答えた。大粒の涙を落としながら、申し訳なさそうに。
「――あなたは、あの事故で、死んだんです」
言われた言葉の意味が、分からなかった。
「……は? 死んだって、何言ってるんですか。この通り生きてますよ。心臓だってちゃんと――」
動いていなかった。
左胸を触る右の掌に心臓の拍動が感じられない。勘違いや思い違いではなく、本当に感じられない。
「ど、どういうことだよ……これ……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
泣きじゃくりながら語るヒヨルさんの言葉を、俺は信じられなかった。けれど、いくら信じられなくても、それが今の俺の現実だった。
俺は一度死んだ。でも生き返った。いや、違うか。
俺……三ツ谷ミノルは死んで、そしてヒヨルさんの『力』で――"ヒヨルさんと同じワルキューレに転生した"。
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