先行き不安の魔法使い

3/18
前へ
/233ページ
次へ
彼女は朽ちかけた大きな扉を何度か叩く。程無くして扉の奥から声が響いてきた。 「合言葉は……? でゴザル」 「知らない……そんなの……」 急に合言葉を求めてきたその声は、彼女からすれば知り合いの声なのだが恐らく遊んでいるのだろう。 だが彼女にそんな暇はない。厳密には彼に、だが。 「私……暇ない……」 「ほら、少し位空気読むでゴザル! 何か、何か言って!」 「はあはあ、扉の向こうから良い匂いがするっ! 早く! 早く開けて!」 騒がしくなってきた扉の奥を想像し、彼女は溜め息を吐く。仕方ないと肩を落として息を吸う。 「開けなきゃ……裂きます……コレで……」 「あっ……すまないでゴザル」 「あの……頭撫でるだけでも、良い?」 その扉は、その引いた声と共にゆっくりと開いていった。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加