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彼女は朽ちかけた大きな扉を何度か叩く。程無くして扉の奥から声が響いてきた。
「合言葉は……? でゴザル」
「知らない……そんなの……」
急に合言葉を求めてきたその声は、彼女からすれば知り合いの声なのだが恐らく遊んでいるのだろう。
だが彼女にそんな暇はない。厳密には彼に、だが。
「私……暇ない……」
「ほら、少し位空気読むでゴザル! 何か、何か言って!」
「はあはあ、扉の向こうから良い匂いがするっ! 早く! 早く開けて!」
騒がしくなってきた扉の奥を想像し、彼女は溜め息を吐く。仕方ないと肩を落として息を吸う。
「開けなきゃ……裂きます……コレで……」
「あっ……すまないでゴザル」
「あの……頭撫でるだけでも、良い?」
その扉は、その引いた声と共にゆっくりと開いていった。
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