―序―

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   目覚まし時計の甲高いアラームが六畳一間の部屋に響き渡る。 「ん、んー……」  鳴り響くアラームの音で夢と言う世界から現実に戻されてしまったのは九条誠也(クジョウセイヤ)だ。布団の中でモゾモゾと動き、掛け布団の下から時計に向けてゆっくり腕が伸びていく。  指先が時計に触れるか触れないか、微かに指先が時計に触れた。残念な事に目覚まし時計は二段ラックの上から床にへと落ちていく。それでも、甲高いアラームは鳴り続けていた。 「はぁ……ありえねぇ」  なにやら階段を勢いよく駆け上がって来る音も聴こえて来ると、足音は誠也の部屋の前で止まり。扉を開け現れたのはエプロン姿の誠也の母親だった。 「誠也ー! 起きなさい学校遅刻するわよ」 「んー、起きてるー」 「ははん、ほらほら起きた起きた!」  母親がフライパンとお玉を叩き合わせ雑音を奏でる。その音は目覚まし時計のアラームよりも遥かに煩い。流石に誠也もこの音には参るらしく、両手で耳を押さえつけながら布団から飛び起きた。 「わかった!! 起きるからそれ辞めくれ!」 「よろしい、ご飯出来てるから支度したら食べなさいね。 わかってると思うけど二度寝したら……」  母親が部屋から出る所で一回、フライパンとお玉を叩き合わせた。起きなければもう一度あの雑音の嵐が来る。その事を母親は誠也に教えたのだろう。だから、母親が部屋を出ていった後も誠也は二度寝をしようとは思わなかった。 「たくっ、ほんと最悪だ」  今日、長い夏休みが終わりを告げた。
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