―序―

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  ―― 「行ってきまーす……」  家の玄関で煙草をくわえ笑顔で手を振る母親に誠也はボソリと別れの挨拶をした。  家を出て駅に向かって歩き始める。普通の高校生の登校、だが、なぜか誠也の格好がかなり不自然だ。手に余る程の荷物達、キャーリバック、ボストンバックと学生鞄に紙袋。高校生の夏休み明けにしては荷物が明らかに多い。本来一般的高校生はこれの半分にも満たない荷物で登校するだろう。  しかし、誠也の通う高校の生徒達は高校の寮に入らなくては成らない。その為、長い夏休み明けはこうして大量の荷物を運ばなくてはいけないのだ。少なからず、他の生徒達は親が車で運んだり、専門の運び屋に頼んだりと楽をしている。  中学の時がいかに楽だったのだろうと噛み締めて「遠いから無理、去年も電車で行ったんだから平気でしょ」と言った母親を思い出し、誠也から溜め息が溢れた。  交差点に差し掛かる辺り、辺りをキョロキョロと見回すお婆ちゃんに目がいった。きっと何かに困ってる、誰が見てもそれは思うだろう。誠也もその一人である。  すれ違う人々の様に見て見ぬふりをするか?お婆ちゃんに声を駆け事情を聞くのか?誠也に二つの選択肢が生まれた。大量の荷物を持っているし時間はあまり余裕は無い。それでも、誠也は後者を選んだ。困ってる人を黙って見過ごせない。自らの性格が打ち勝ったのだ。 「お婆ちゃんどうかしたの?」  
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