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「あ、ちょっと時計を無くしてねぇ……」
「時計か、お婆ちゃんその時計特徴は?」
「黒い革紐の懐中時計でねぇ、大分古い時計だから誰かがごみ箱に捨てたのかもねぇ」
「黒い革紐の懐中時計ね、俺も一緒に探すからさ、ちょっと待ってて」
大量の荷物を抱えては見付かる物も見付からないし、何しろ邪魔でしょうがない。その為、誠也は近くにあった自動販売機の横に荷物を置くとお婆ちゃんの元に戻ってきた。
「それでお婆ちゃん、落としたのはここら辺なんだよね」
「ええ、そのはずなんだけど見付からなくて、本当すまないねぇ」
只今の時刻、AM七時三十六分。誠也が普段乗る電車は八時ジャスト、残り僅かな駅までの距離を考えると十分という限られた時間しかない。誠也は「いいよ全然」と笑って言うと歩道の横の植栽を探し始めた。
時計を探す最中、通り過ぎて行く人々の何とも言えない目線が誠也に降り注ぐ。気にせず、モクモクと探し続ける誠也、しかし目的の時計はそこにはなく見付からない。
「お兄ちゃん、無いならもういいんだよ」
お婆ちゃんの言葉に返事をしながら誠也は振り向いた。
「ちょっと待って、あともう……あっ!」
思わず声をあげたと同時に指を指す。向けられた先はお婆ちゃんの上着のポケットだった。お婆ちゃんの着ている上着のポケットから黒い革紐がちょこっとだけ見える。お婆ちゃんが取り出すと確かにそれは探していた黒い革紐の懐中時計だった。
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