始まり(序序)

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 唐澤麻霧は二〇四〇年生まれ。今年で成人式を迎え、現在二十歳。身長は日本人の平均より頭一つ抜けている。勉強は学校の授業のみで、一切してこなかった。課題もこなさいない。子供の事からずっとそうだったので、今更、生活リズムを変えることはなかった。不良というレッテルを張られ、教師からは白い目で見られてきても友人は大勢したし、頼られてきたので不満はない。自分を理解できない奴が馬鹿なのだと本気で思っている。高校には行かなかった。受験すらしなかった。試されている感じがしたからだ。あり余った時間を、やりたいことに使った。世界中を回り、様々なところを見てきた。大自然、世界遺産、紛争地帯、スラム街、貧困民、富裕層。あらゆる文化に接し、多くの友を作ってきた。その場その場で職を手にし、生き繋いできた。 ――世界は、なんて狭いんだろう。五年間の旅を経て、唐澤はそう思った。  人を試す権利があるのはこの俺だ。  何故、高校さえも行かなかった外れ者の自分が試作実験のプレイヤーとして選ばれたのか。検査を受けていた時に知り合った奴らは、優秀な奴等ばかりだった。世界的に活躍しているスポーツ選手や歌手や学者がわんさかいた。自分だけういているようだった。  まるで分からない。  だけれど、唐澤は自分が選ばれたのは当然だと思っている。  俺が選ばれないで誰が選ばれる。  理由はないが当然の結果だ。  理屈ではない。  唐澤はこういう人間だった。
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