譚ノ參 陰鬱なる罠

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襲撃から5日目を数えた日の朝。 紫翳は、まだ夜も明けきらぬうちから起き出していた。 体が熱く、寝苦しい。 厨{くりや}の裏手にある井戸まで行って、頭から水を被った。 ひどく全身が重い上に、体の芯が熱い。 頭{かぶり}を振って滴を払い飛ばしながら、多少なりとも気だるさが紛れるのを期待する。 庭の手入れは、毎日せっせと猫目石がしてくれている。 花々の影に、雑鬼どもが身を寄せ合うようにして眠っているのを見つけた。 毛の塊が、呼吸に合わせて微妙に膨れたり沈んだりしている。 ふと視線を感じて振り向くと、猫目石が彼女に与えている寝室から顔を出していた。 紫翳の起き出す音を聞きつけて、目を醒ましたのだろう。 少し寝乱れた黒い髪が、なんとも言えず無防備なように見えてしまった。 「構わん。寝ておれ」 紫翳は言った。 己の声が掠れていることに気付く。 猫目石が裸足のまま庭に降りて寄ってきた。 小柄ながらに精一杯爪先立ちをして、背の高い紫翳の顔を覗き込もうとする。 己の不調は自覚している紫翳が身を離そうとすると、つられた猫目石がよろめいた。 咄嗟に腕を伸ばして支えてやる。 「気を付けろ。危ない」 猫目石が体勢を整えたのを確認してから、彼女を放す。 「私は部屋に戻る。お前は寝ていれば良い」 判断はお前に任せる、と言外に言い置いて、閨{ねや}に戻る。 疲労が全身に重くのしかかっていた。 この5日は、襲撃すらもなく静かに過ぎていた。 それ故、最も紫翳を消耗させる孔雀の臨戦態勢での顕現もなかったし、それであれば、孔雀が顕現しても消耗しない。 誇り高い孔雀は、紫翳を名で呼ぼうとはしないが、様子見のために神気を抑制しながら顕現することもしばしばだ。 それなら紫翳も神気に当てられないことを理解してくれている。 だとしたら、この疲労の原因は何であるのか。
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