譚ノ參 陰鬱なる罠

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じっとしていても、額に汗が滲む。 ぐらりと目眩がした。 畳に膝をつき、脇息にもたれた。 それでもおさまらず、目を閉じてぐったりうなだれる。 思考が散してしまう。 なぜこれほど疲れているのか、思い当たるものが何もない。 故に、急な不調が理解できなかった。 全身が重い。じわじわと、このまま畳に沈んでいきそうだ。 首だけで頭を支えていることができそうもない。 定まらぬ己の呼吸を聞きながら、紫翳は眉間に皺を寄せて、昨日の行動を顧みる。 いつも通り出仕を平然と無視してのけ、珍しく揃って顕現した孔雀と紅旋の話を聞き、鶫と3人で戯れる様を猫目石と一緒になって眺め、そこに雑鬼が加わって大層賑やかになり、途中から飽きた紫翳は本を読み、その傍らで猫目石が転た寝し……全く日頃と変わらない1日だった筈だ。 すら、と襖が開いた。 大儀そうに顔を上げた紫翳の許に、猫目石が歩みよった。 手拭いを差し出される。 一瞬、よく分からなかったが、毛先から水滴が滴るのを見て、あぁ、と納得する。 確かに、頭から水を被りっぱなしでは風邪をひく。 「もう良い。下がれ」 手拭いを受け取り、今度は一人にしてくれと言うと、忠実な猫目石は僅かに頷いて背を向けた。 「……………」 急速に、世界が回った。 脇息にもたれるように、ぐったり崩れ落ちる。体重を支えきれなかった脇息が傾いた。 派手な音を聞いた猫目石が振り返る。倒れた脇息の脇に、主人が青白い顔で力なく横たわっていた。 「主{あるじ}」 急に、乾{いぬい}が警告の声を発して顕現した。 晟雅は足を止める。 ぴんと夜の空気が張っている。術の気配だ。 「やれやれ。相手を間違えていないか?」 晟雅は、わざと大きな声で独り言ち、右手は刀印を組んだ。 「俺は紫翳ほど強くないんだがな」
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