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じっとしていても、額に汗が滲む。
ぐらりと目眩がした。
畳に膝をつき、脇息にもたれた。
それでもおさまらず、目を閉じてぐったりうなだれる。
思考が散してしまう。
なぜこれほど疲れているのか、思い当たるものが何もない。
故に、急な不調が理解できなかった。
全身が重い。じわじわと、このまま畳に沈んでいきそうだ。
首だけで頭を支えていることができそうもない。
定まらぬ己の呼吸を聞きながら、紫翳は眉間に皺を寄せて、昨日の行動を顧みる。
いつも通り出仕を平然と無視してのけ、珍しく揃って顕現した孔雀と紅旋の話を聞き、鶫と3人で戯れる様を猫目石と一緒になって眺め、そこに雑鬼が加わって大層賑やかになり、途中から飽きた紫翳は本を読み、その傍らで猫目石が転た寝し……全く日頃と変わらない1日だった筈だ。
すら、と襖が開いた。
大儀そうに顔を上げた紫翳の許に、猫目石が歩みよった。
手拭いを差し出される。
一瞬、よく分からなかったが、毛先から水滴が滴るのを見て、あぁ、と納得する。
確かに、頭から水を被りっぱなしでは風邪をひく。
「もう良い。下がれ」
手拭いを受け取り、今度は一人にしてくれと言うと、忠実な猫目石は僅かに頷いて背を向けた。
「……………」
急速に、世界が回った。
脇息にもたれるように、ぐったり崩れ落ちる。体重を支えきれなかった脇息が傾いた。
派手な音を聞いた猫目石が振り返る。倒れた脇息の脇に、主人が青白い顔で力なく横たわっていた。
「主{あるじ}」
急に、乾{いぬい}が警告の声を発して顕現した。
晟雅は足を止める。
ぴんと夜の空気が張っている。術の気配だ。
「やれやれ。相手を間違えていないか?」
晟雅は、わざと大きな声で独り言ち、右手は刀印を組んだ。
「俺は紫翳ほど強くないんだがな」
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