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10日も姿を見ていない友の名を、勝手に引き合いに出してぼやく頃には、体勢が整っていた。
口の中で素早く呪文を紡ぐ。
足元に、晟雅を中心にして五芒星が現れた。
「──急急如律令」
最後の命令を聞き、術が発動する。
夜闇に乗じてざわざわと晟雅に迫っていた小さな蛇どもが、わっと散らされて消えていく。
吹き抜けた風は、蛇を灰にして吹き去った。
「良き判断だ」
「うおっ」
思いがけず間近で声がしたものだから、晟雅は驚いて振り返った。
いつぞや邂逅した二足歩行の蜥蜴が、またもや闇と半分同化して立っていた。
「なんだ、お前の術か、蜥蜴」
「返し方が些か派手なのは、お前と紫翳の違いか?」
「そんなこと俺に訊くな」
蜥蜴と紫翳が既知の間柄であるだけでも苦笑したいのに、蜥蜴が紫翳の性格をそこそこ分かっているのには呆れた。
「で、俺に何か用か?」
「お前の力量も、そこそこ高いものだと聞いておる故、実際どれほどのものか確かめようかと思うてな」
「そんなことのためだけに、仕掛けてくるな。乾も顕現のし損じゃないか」
約定の式神である乾は、主人に迫った危機を見かねて顕現したのである。
「悪かったな、乾。面倒だから、そのまま顕現しておけ」
「……御意」
「で、蜥蜴。俺の力量には、満足したのか?」
「我は紫翳以上に力のある陰陽師を知らぬ。故に我にとっては、紫翳こそが真の陰陽師だ。異端と呼ばれておろうともな」
「ただケチつけに来たんじゃないのか、お前? それなら、紫翳に相手をしてもらえば良かろう」
「もう10日も姿を見ておらぬ。何か知らぬかと思うてな」
「なんだって」
晟雅は軽く眉を上げた。
「お前も紫翳を見ていないのか?」
「も?」
蜥蜴が怪訝そうに繰り返す。
「では、お前も見ておらなんだか、宇山晟雅」
「ああ。あいつが出仕して来ないのはいつものことだが、過日のこともあるし、ちょっと心配でな」
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