夜汽車の霊夢

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それを顔の前に掲げると、女は心底だいじそうに袋を見つめる。 赤ん坊にケガをさせてしまってないか、という目で。 カバンを、見もせず上の金網に放り投げ、 ビニール袋は、これまた心底だいじそうに向かいの座席に置き、 自分も腰掛ける。 一息つくと、しばらく窓の外を眺めた。 なにか、面白いものがある訳でもない。 外はまっくらなだけ。 女は、ただ待っていたのだ。 「切符を拝見しまーす」 車内に目を戻せば、そこに立つのは車掌。 キュウリを片手に、空いた手を女に差し出した。
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