迷いの美術室

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 白百合は軽い身のこなしでジャンプすると、美術室の机に飛び乗った。猫の感情なんかわからんが、小悪魔の笑みを浮かべているような気がする。  そして、慣れた様子で机から机へと飛び移り、あっという間に絵筆の束へと辿り着き、そこから上手く一本をくわえた。その鮮やかさ、敵ながらアッパレ! 「こら、白百合。 やめろ!」  飼い主である零の呼び掛けに、白百合は俺達をからかう様に、絵筆を咥えたまま、ニャーオと喉の奥から少しくぐもった鳴き声を上げた。耳はピンと立ち、真っ白な尻尾が艶かしく揺れている。白百合はそのまま、もと来た道を渡り、来た時と同じ窓から、風の様に飛び出していった。  俺は呆然として、零と顔を見合わせる。零も、まさか、という顔をしていた。  そして数秒後、俺達は同時に走り出していた。
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