逃走劇

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「翔太! 靴を履き替える間はない!!」 「わーってるよ!(わかっているよ)」  俺と零は突風の様に、校舎の階段をかけ降り、外に出た。白百合の姿は、校舎の角を曲がり、裏門に向かうのが一瞬見えた程度だ。俺は五〇メートル走の速さも、持久走のタイムも、極々平均的な記録しかない。そんなんであの小柄な猫に、おいかけっこで勝てるわけがない。それでも俺は、あまり整備されていない裏門へと、弾丸の如く突っ込み、学校の外に出た。  田舎にあるこの高校の裏門は、とにかく道が細い。零の姿は見えないが、後ろにくっついているのが、何となく気配で分かる。  やがて黒いコンクリートの道は無くなり、落葉の絨毯の下に、チョコレート色をした地面が見え隠れし、ところどころで木の根が飛び出すようになった。俺は細心の注意を払って、木の根を避けたり、飛び越えたりして、罠をくぐり抜ける。  猫の姿は相変わらずギリギリ見えるところで追っていたが、急に姿が消えた。いくら気紛れな猫とはいえ、なんのマジックだ?拓けた道は真っ直ぐしかないし、方向転換して道を逸れたようにも見えなかったぞ?  そして、訝しみながら走る俺の足下が、突然なくなった。 「な……!?」  声を上げ、急ブレーキをかけたが、もう遅い。どうやら、ちょっとした高めの段差があった様だ。猫が消えたマジックの種は、簡単に明かされた。つーか俺、もっと早く気付けよ。 「あっ!!」  と、後ろから声が上がると同時に、重い衝撃が被さる。急に止まろうとした俺に、零がぶつかったらしい。柔らかな感触が背中に当たるが、ウホッ、来たコレ!!なんて思っている場合じゃねぇ!  咄嗟に俺は身体をよじって向きを変える。背中に固い衝撃が走った。中学生の時に、プールでふざけて飛び込み、腹打ちならぬ背中打ちをした記憶が蘇る。あぁ、頭も少し打ったみてぇだし、今すぐ天に召されそうだ。  そして今、俺の顔には零のサラサラした黒髪が流れ落ちている。零は呻きながらも、何とか身体を起こした。おい神様、もう少しこのままにしてくれたって、良いんだぞ?  俺と零の目が合い、零の白い顔から血の気が引いた。 「翔太、大丈夫か?」 「とりあえず、生きてはいる」
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