4人が本棚に入れています
本棚に追加
――視界が眩い光で満たされている。それはあったかくて、何故か懐かしい。
そんな幸せな夢の途中、誰かが俺を呼んだ気がした。
零?もしかして、お前なのか?
そんな気がして俺は、俺を見下ろすボヤけた輪郭に向かって手を伸ばした。俺は大丈夫だって、伝えなきゃ。俺以外に、誰があの不器用な零をサポートするんだ。
「翔ちゃん――翔ちゃん!
良かった、目が覚めたんだね!」
……どう見ても、零のお母さんでした。残念無念、看病してくれる幼馴染みキタ、コレ!と叫びたかったのだが。
「お母さん」
足元付近で、正真正銘の零の声が聞こえた。俺は喜びにうち震えながら顔を上げようとしたが、ツキンとした痛みが頭を駆け巡る。
「翔ちゃん、あなた頭を打って脳震盪を起こして、おまけに微熱まで出ているんだから、まだ安静にしていなきゃダメよ……零、わたしはタオルを絞って、とお願いしたはずなんだけど。
どうしてタオルがまだビショビショなの?」
「絞っても水が出てこない」
「……貸しなさい、わたしがやるわ。
あなたは翔ちゃんとお話しておいて」
「わかった」
殆ど身体を動かせない俺の頭上で、親子の声が飛び交う。零の姿は見えないが、毎日零を見てきた俺からすると、だいたいの様子が想像できて、笑いを必死に堪えた。つーか零の母さんでも、零の不器用っぷりは謎の領域まで達しているのな。
俺の視界から零の母さんが消えて、代わりに零が現れる。普段からあまり変わらない表情だが、それでも俺を心配してくれているのが、シワが寄った眉間と、そのおかげで繋がりそうになっている眉から読み取れる。
「翔太、大丈夫か?」
「おう、そんな心配するなよ。
俺は大丈夫だ」
普段は俺の方が気遣っているのに、何だか変な気分だ。零は何を話したら良いかわからないのか、そのまま黙って俯いてしまった。まずい、これは空気を変えなければ。
そんなわけでふと、俺の方から口を開く。
「猫はどうした?」
一瞬、零はキョトンとしたが、すぐにあっと声を上げ、柔かな笑みを浮かべた。
「あの後、うちの裏庭にいたところを見つけて捕まえた。
だから、それはもう心配ない」
最初のコメントを投稿しよう!