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彼女が好きだ。
とある平日の休み時間、俺は数学の教科書とノートをさっさとしまい、机に突っ伏しながら、日本人形みたいな長い黒髪の彼女を見つめていた。
彼女、北古 零(きたこ れい)は、とにかく勉強が良く出来る。それを証明するかの様に、彼女の周りには、クラスの女子達が群がっている。女王蜂の元へローヤルゼリーを集める働き蜂のごとく。大方、零のノートを写そうって魂胆だったり、わからないところを零に教えてもらおうって思っていたりする女子ばっかりだ。彼女の解説は、ボソボソ喋ってばっかの数学教師よりわかりやすいって評判だからな。
それに加えて、零はとにかく美人だ。艶やかな黒髪は勿論だが、切れ長の眉に、黒真珠のように大きな瞳、整ったシャープな顔立ちに、身長は一六五センチメートルと女子としては背が高い。体型もバッチリのモデル体型。
そして、この高校の生徒会長をしているっていう完璧っぷり。誰もが零を憧れ、羨み、尊敬しているのも頷ける。まぁ、男子達としては、あまりに完璧過ぎて近付き難い存在になっているが。
「さっすが、キタコレさん!
ありがと、助かったわ!」
クラスのムードメーカー女子が、ノートを胸の前に抱えて、キンキンする大声で言った。健康的なショートヘアに、派手な赤いカチューシャがトレードマークらしい、その女子は、高校に入学した一年生の頃から、俺や零と同じクラスだ。そいつが零に対して変なアダ名をつけると、いつの間にか学校中に浸透していた。
零も特に嫌がらないもんだから、担任教師までキタコレさん、なんて呼ぶようになりやがった。俺は昔も今も、零って呼ぶようにしているがな。
さて、そんな変わったアダ名のパーフェクト女子高生、北古 零にも、実は完璧ではないことがある。それは、幼馴染みである俺、南部 翔太(なんぶ しょうた)だけが知っている。自惚れでも何でも良い、俺は零の裏の顔を知る、彼女の理解者だ。
急に、零がこちらへと振り向き、俺とバチッと目が合う。俺は、慌てて零を見ていなかったフリをしたが、彼女は人混みを掻き分け、キビキビとした足取りで俺の席の前まで来た。
「翔太」
「……おう」
お構い無く零が声をかけるので、俺は返事をする。
「これは、どうやったら開く?」
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