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今まで寝てましたという風に眼を擦り、俺は零が持ってきた物へと視線を動かす。そこにあるのは一本のシャーペンだ。ピンク色のハートがペイントされた、いかにも女子らしいシャーペン。てっぺんにはこれまたデカイハートが鎮座している。
それだけを見たら、は?と首を傾げる奴が多いだろうが、長い付き合いの俺にはよく分かる。おそらく、シャーペンの芯がなくなったのだろう。そして、どうすれば芯が入れられるのか、わからないらしい。
彼女の裏の素顔。それは――とんでもなく不器用ということだ。
「ほらよ」
俺は無言でシャーペンのデカイハートを外した。「ありがとう」と言いながら、零は芯を入れる。そして蓋を戻そうとするのだが、上手くかみ合わず苦戦。全く、超ド級に目が悪いってわけじゃないのに、どうしてこうなるんだか。俺は零に向かって手のひらを差し出した。
零は少し戸惑いつつも、俺の手にシャーペンと蓋を乗せる。細くて色白の指は、キレイで柔らかい。
俺はシャーペンの蓋をしめると、再び零にそれを返した。
零が女子達のところに戻ると、俺は再び机に突っ伏しながら、彼女をチラチラと盗み見る。
零は俺が幼馴染みで声をかけやすいのか、自分で出来ないことは、必ず俺に任せに来る。それが俺のささやかな楽しみになっているとは、まさか知らないだろう。零は鈍感だから。
次はどんなことを頼まれるか、それを考えるのも楽しいが、一番は俺を信頼してくれている気がするからだ。
こんなささやかなアタックしか出来ない俺だが、それでも他の野郎達よりは一歩リードしているつもりでいる。
俺は、北古 零が好きだ。
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