迷いの美術室

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「これは、重要な手掛かりだ」  零はそう言いながら、窓にかかった猫の毛を取ろうとしている。不器用過ぎてなかなか取れないもんだから、俺が代わりに摘まみ取った。くそう、こういうところが可愛いんだよな。俺が取った猫の毛を、ジッパー付きの小さな袋に入れると、零は神妙な顔をして言った。 「手掛かりゲット。 キタコレだけに、キタ、コレ」  一瞬、俺の中の時が止まる。 「……いや、本人が言うのかよ」  零のあだ名がキタコレだったのを思いだしつつ、俺は何とか突っ込みを入れた。すると零は、俺の方を見て、微かに微笑んだ。  可愛い……クールビューティーな零の笑顔はレア中のレアだ。よっしゃ!キタ、これ!これが見られるだけでも、捜査の手伝いをした甲斐があるってもんだぜ。 「わたしは、割とこのニックネームを気に入っているんだ」 「ふぅん。 じゃ、俺もキタコレって呼んだ方が良いのか?」 「いや、翔太には零と呼んで欲しい。 調子が狂う」  零は真顔に戻って、そう言った。俺だって、キタコレなんて呼ぶのは調子が狂うからな、心底安心した。それにその方が、俺が零にとって特別な存在なんじゃないか、なんて気がしてくる。  とにかく、と零が口を開いた瞬間、まさかの、か細いニャーという鳴き声が聞こえてきた。  ビクッとして振り向く、俺と零。真っ白な体毛に包まれた、秋から冬へと導く雪の精の様な猫が、なんと自分で美術室の窓を開け、入ってきていた。おい、窓の鍵かけてなかったのかよ。猫の黒と水色の瞳はつぶらで、何の悪意もない、純粋な赤ん坊を思わせる。それより、わざわざ二階に入ってくるなんて、なんて猫だ。  だが、もっと驚いたのは、零の反応だった。 「白百合……」  驚愕に目を見開いた零は、そう言った。俺は脳をフル回転させ、呟く様に言う。 「え、あれ……もしかして零の飼い猫?」 「……の、うちの一匹だ」  おい、俺が昔遊びに行った時は、確か一匹しかいなかったはずだぞ。いつのまに増殖したんだ。  そして白い妖精は、愛らしい鳴き声と供に、小さな悪魔へと変身する。
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