203人が本棚に入れています
本棚に追加
兎を抱き上げテクテクと歩く雅。腕の中の兎はキョロキョロと周囲を見渡している。
言葉なき動物との会話は雅の一族にとっては造作もないことだが、他人から見れば嫌悪される畏怖の力。
雅は腕の中の暖かい温もりを撫でながらも蘇る過去の記憶に気持ちが暗くなっていく。
ふと明るい前方に目をやれば森の入口が見えた。雅の顔が明るくなる。
「あ、着いた!兎ちゃん、道案内ありがとう!ちょー助かった!」
兎に言えば嬉しそうに耳を動かし促すように鼻をヒクヒクさせる。
クスクス笑った雅は兎を抱えたまま歩き、森から抜け出した。
ふと周りを見渡しても置いてきたはずの彼の姿がない。もちろん鷹翅の姿も。
首を傾げる雅の耳に鳴き声が聞こえてきた。鋭く高い…鷹翅である。
兎を降ろし、その方へと駆け出すと後ろをついてくる気配。
振り返った雅はクリクリとした瞳で見上げてくる兎の前にしゃがみ頭を撫でた。
「危ないよ?森にお帰り。」
雅が促すも兎は動こうとしない。困ったがどうしようもないので連れて行くことにする。
この先は目的地のはず。そう思いながら雅は走り出した。
鷹翅が呼んでいる。そう思いながら…
最初のコメントを投稿しよう!