とあるいたずら

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 重大な罪を犯して、ここに放り込まれてはや十六年たった。  放り込まれて以来、誰かがこの牢を訪れたことはなかった。  だが、孤独ではなかった。そんなことは感じていなかった。  なぜなら、この者には、罪を犯してまで手に入れた最高の人生が設定されている。 誰もが知りえないどこかの牢獄で、 「もうすぐか……?」と。  その人型をした何かは微笑を浮かべて、己以外何もない檻の中一人で嘯いた。十六年ぶりに発した言葉は自分のものではないほどにしゃがれていた。一度として口を開いたことはなかった喉が静かな痛みをもって悲鳴を訴えた。  だが、本人がその痛みに気づく前に、その人影は跡形なく忽然と消えた。  まるで、先までのそれが幻であったかのように。  少したつと、牢屋の外からひとつの人影が歩いてきた。牢屋の中から見たその姿は、先ほどの牢屋に入っていた者より巨体だった。別人である。  かの者は今しがたあるじの消えた檻の前で立ち止まり、牢屋に人影がないことを見て、頭の中だけひどく狼狽した。  そして、 「くそっ、まさか……」  と、そうはき捨て、今来た道を戻っていった。
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