◇ソフィアと暴君竜

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 その話から分かったタイラントドラゴンの特徴を述べると、大体こんな感じにでしょうか。    黒い鱗に覆われており、生き物なら何でも食べる大鰐。恐ろしく動作が機敏。しかも、どれだけ巧妙に気配を絶ってもこちら側の存在を察知してくる。    本能レベルで戦闘意識が刷り込まれており、基本的に絶対逃げない。生命力が高く、中々死なない。個体数が非常に多い。一匹いれば近くにもう三十匹は確実にいる。カサカサ動く。      ……カサカサ?      どうも特徴を統合してみた限り、タイラントドラゴンとはこのような性質を兼ね備えた生き物のようです。    一応、魔物の知識は職業柄ある程度把握しておく必要があるのでそこそこ詳しいつもりですが、ことタイラントドラゴンに関しては、そもそもの情報が足りていないので初めて知る事も多くありました。    極端な話、過去の記録からは、黒くて巨大である事位しか分かっていません。    最も、今回の情報だって、そんなに当てにしない方が良さそうですけど。      だって、鰐って……。    いくらこの人の発想が自由だからといって、さすがにドラゴンを鰐と一緒にするのはどうかと思う。そもそも何で鰐が山中にいるのか。    楽しそうに語っている彼女には申し訳ないと思いつつも、私は脳内にて、タイラントドラゴンの外見を四つ足で大顎が特徴、程度に修正しておいた。      一通り話し終えたら満足したのか、彼女は明らかにご機嫌である様子を顔に貼り付けたまま、さっきまで手元に持っていたものも含め、更に幾つかの木彫り人形も手に取って纏めてレジへと持ち運ぶ。    ……買うんだ、ソレ。      私が呆れやら何やらを抱いているうちに、無事購入し終えたナギサさんはこちらに近寄り、屈託ない笑顔を浮かべるのでした。     「じゃあ行こっか」    ──何故か、途方もなく嫌な予感がした。軽く寒気すら覚えた。    普通に考えれば、雑貨屋を出て、また別の場所の散策を始めるという意味なのでしょうけど、どうも私にはもっと別の意図がある気がしてならなかったのです。     「……行く、というのは?」    恐る恐る口に出してみた言葉に緊張がこもる。それは相手にも伝わっている筈ですが、向こうは何でもないようで。強いて言うなら、少し小首を傾げる程度です。    一方私はと言えば、その様相に一層危機感を募らせるのでした。  
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