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マズい。具体的に何がマズいか分からないけど、この十七年の人生で最大の危機の気配がする。
軽く恐慌状態に陥り掛けている最中、眼前の魔王様は、正しく分かりきった事を告げるようにこう口にするのでした。
──そして、それは間違いなく死刑宣告だった。
「いや、だからドラゴンを見に」
……。
…………。
どうしてそうなった!
硬直状態に移行した私を不思議そうな様子で眺めるものの、暫く待っても動き出す気配がない事を理解すると、彼女は私の手を引き店から連れ出すのでした。
次の目的地は、大山脈。
このままでは取り返しの付かない事になると頭では理解しているものの、あまりにもの展開に、感情の方が追い付いて来ない。
え、あの、私、着いて行かないって言ったよね? それなのに、どうして普通に連れ回してるのかな?
あの時のやり取りは一体何だったのか。
私は困惑を隠せず、ナギサさんは引きずるように私を引っ張って進む。まさか本当に大山脈へと連れて行かれる事を、同僚達は予想出来ていたのだろうか。
お父様、お母様、先立つ不幸をお許し下さい……。
──じゃなくて!
「あの、私戦闘とかからっきし駄目なんですけど!」
「ん、大丈夫。基本的に見てるだけで良いから。それに、ソフィーなら魔技で一人でも帰れるでしょ」
にっこり微笑み掛ける彼女の言葉からは、何の安堵も得られませんでした。むしろ、外堀を埋められた気すらします。
道中の魔物は、どうやら全てナギサさんがどうにかしてくれるみたいです。仮にも、一国の戦力に相当すると言われる魔王級のお言葉ですから、それはもう頼り甲斐があるでしょう。
全く嬉しくないけど。
ええ、そういう問題じゃないんですよ。
それ以前の話として、大山脈という環境が既に心臓に宜しくないんです。
私は臆病な小市民なんです。どれだけ命の保障がされていようと、ドラゴンと遭遇でもした日には、間違いなく精神面がズタズタに引き裂かれます。
確かに私の魔技なら、闇属性であれば、例え山頂からであっても一発で帰還出来るのではないかと思います。正確な所は試してみなくては分からないものの、まあ大丈夫でしょう。
精神衛生的な面は別として。
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