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その証拠に、俺の喉元には強烈な殺気が突き付けられている。彼女の両手に握る、その先端鋭い槍と共に。それはレプリカではない。本物であると、穂先の金属の光沢が俺に訴え掛けて来るのだ。
どうしてこうなった。
異世界転移、もしくはトリップと呼ばれるものをご存知だろうか。
何の変哲も無い日本人が、突如として地球とは異なる異世界に飛ばされ、その地で生活を余儀なくされるジャンルだ。そしてその多くは、一般的にチートと総称される規格外の能力を身につける。その後の生活は仄々(ほのぼの)と過ごしてみたり、逆に世界崩壊の危機に立ち向かってみたり。その辺りはまあ様々だが。
最近のラノベでは、こうした異世界物を取り扱った作品が非常に多い。一種のブームのようなものだろう。
そして俺もまた、そういった類のラノベをこよなく愛読している一人である。
では、ここで一旦自己紹介をしておこうか。俺の名前は新垣(あらがき)祐介(ゆうすけ)。どこにでもいる普通の日本人だ。現在は高校最高学年を迎えており、進路確定を目指し受験に取り組む日々を送っている。
いや、そうした日々を送っていた、と過去形で言い直した方が適切かも知れない。
ともかく俺の日常に異物が紛れ込んだのは、あれは確か、とある地方にて大学受験の試験を受けに出掛けた時。
地方という事情から普段生活を送る実家を一時的に離れ、泊まり込みで試験会場付近に建つホテルの一部屋に滞在した。ここまではまだ良い。
それが発生したのは、試験当日である。
この日に限って目覚ましをセットし忘れていた俺は、試験開始時刻ギリギリの段階で起床。朝食を摂る暇も無く、慌てて会場まで駆け出す。
そうして、注意散漫になった所をトラックに撥ねられそうになって――撥ねられてはいない。誤解のなきよう――。その後半ば放心していた所で、何故か偶々開いていたマンホールの穴に落下したのだった。
マンホールの穴が本来、簡単に人一人が落下出来る程巨大だったかは疑問だが、今更それを考えるのは止そう。実際そうなっているのだから。
さて、本当に問題なのは実はここからであった。
マンホールから落ちた先に広がっていたのは、ただひたすらの闇。光の一片すら通さず、さながらこの世の全てを浸蝕するかのようなそれは、どうやら俺の知っている日常とは別の存在らしかった。
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