29人が本棚に入れています
本棚に追加
いや、それも少し違うか。
その馬鹿力の理由が分かったから、納得して何とも思わなくなったに近い。
詳しく言えば、分からないことが分かったからなのだが、ややこしいからこれでいいだろう。
今度は袖でなく、手首を掴んで催促する彼女に、僕は思わぬ伏兵が現れたとちょっと驚嘆。
マフラーが元気に蠢いていることから見るに、どうやら栞は知っているらしい。
僕が探している、伊犂水辺さんの居場所を。
それなら好都合、と僕はその催促に応じて足を動かす。
僕が歩き出したのを確認して、栞は前を歩き始めた。
迷い無き足取りで、何処へと向かっていく。
邪魔な生徒を次々に躱していくのは、流石としか言いようがない。
それに便乗してついて行く僕も、僕だが。
東棟と南棟を繋ぐ廊下を通り、今度は階段を上って三階へ。
音楽室や美術室など、副教科の教室が多く存在するこの南棟では、東棟と比べて見受けられる生徒は少ない。
通常よりも少し少ない、という東棟から来た僕としては、天国とも思える環境だ。
湾曲した廊下を歩きながら、僕はその解放感に浸る。
が、それも長くは続かなかった。
「ほら、あそこあそこ」
そう言って栞は指差す。
南棟を殆ど出ており、西棟へと繋がる廊下まであと数歩といった所だった。
そんな場所で栞が足を止めてまで見せたものは。
「うっわ……絶対あそこにいるな…」
西棟の屋上で群れる、男子共の姿だった。
なんともむさ苦しい景色だ、と苦笑いするが、せめてもの救いか。
屋上の出口から半分までの空間しか、そのイビルワールドは形作られていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!