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女子なら、見ただけで顔を顰めるだろう、そんな精神衛生上よろしくない光景。
そんな状態を創り上げているのは、ただ一人の人物。
残った半分の開けっぴろげな空間にいる、一人の少女だ。
その名こそ、伊犂水辺薫。
全学年に名前を轟かせる、金髪美少女だ。
彼女を表すとすれば、何を言うべきだろうか。
話したことなんて、一度も無い。
気に掛けて凝視した事も、無い。
そんな僕でも、確実にこの言葉を言うだろう。
可愛いぞ、と。
どちらかといえば綺麗系のその美貌は、見る者を虜にする…らしい。
長く伸びた、絹のような滑らかさの金髪。
純金を溶かしたかのような輝きを持つ髪には、神性の魅力があるのだ、と誰かが言っていた。
緩やかに編まれた後ろ髪が、それを際立たせるとも。
そこまでか、と言いたくなる様な絶賛ぶりだが、僕としても異論はない。
ただ綺麗だと感想を抱くか、それを詳しく評価するかだけの話。
歯が浮く様な台詞も、彼女の前では事実と成り得るのだろう。
女子の間でも、抱き締めたい、撫でられたい、踏まれたいなどといった感情があるようだ。
最後については、目を瞑る。
「なぁ……栞」
そんな彼女だからこそ、男には信仰の対象となってしまうわけだ。
その結果が、あの暑苦しい男共のひしめき合った、屋上。
つまり、彼女に声をかけるには、あの壁を突破しなくてはならなくなる。
僕には無理だ。
「いつ…やれと?」
「今じゃないの?」
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