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そんな状況下だったが、僕はある人物を探していた。
知り合い以上じゃなく、只の初対面だが。
先程、何もする事が無かった為廊下で人波に揉まれていると、ある男子から呼び止められたのだ。
僕に用があったわけではないらしいが、それと同様に僕を探していたらしい。
曰く、僕のような奴にしか頼めないと。
それが、『とある奴を呼んでくれ』という願いだった。
僕は当然断ろうとした。
こんな人混みの中から探し出せるものか、と。
前述の通り、現状の校内は阿鼻叫喚の地獄絵図……ではなく、もみくちゃである。
こんな中を掻き分けていくなんて、御免だ。
どんな末路かなんて火を見る様に明らかで、想像に難くない。
そう言うと、そいつは首を振った。
違う、と。
その言葉に疑問を覚えた僕は、勿論のこと問い返したわけだ。
何が違うんだ?、という至極真っ当な質問を。
それにそいつは端的に答えた。
『探して欲しいのは、伊犂水辺 薫(いりみずべ かおる)だ』。
納得した。
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