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その表情から、次にその小さな口から出てくる言葉は容易に想像出来る。
「なにするのよ?」
誰でも言うだろう、予想通りの質問だった。
「ちょっと頼まれて、人を探してる」
「だれ?」
「伊犂水辺さん」
端的に要点だけに絞った僕の答えに、栞は首を傾げた。
浮動した感情を持つ彼女だが、今はある事に頭を絞っているらしい。
地面に付きそうな程長いマフラーが、ゆったりと八の字を描くように動いている時は、何かを考えている印だ。
経験則。
たっぷり五秒間唸りながら考えていた栞は、ぱっと顔を明るくしたかと思うと、僕の手を掴んだ。
手首を掴むという、油断も隙もない構え。
恋人繋ぎを何気に所望していた僕としては、ちょっと寂しい。
そして怖い。
手の平なら、まだ対処出来るだろうが、手首は駄目だ。
栞は、こんな華奢な身体つきをしていながら、単純な力なら大の大人を遥かに凌ぐ。
校舎を蹴りつけて、壁を壊したことだってあった。
握力だって、指で林檎を弾いていた。
その光景を見た僕は、度肝を抜かれたものだ。
訳が分からない、といった心境だった。
とはいえ、やはり慣れたもので、その馬鹿力についても何も思わなくなってきた。
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