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俺を見ずに続ける彼女の冷たい声が
俺の耳を通り抜けて、彼女に近づこうとする俺の足を躊躇わせる。
違う、そうじゃない
「彼女はいない
高校からは、ずっと」
その言葉に彼女の肩が少しだけ上がった。
「………けど」
彼女は少しだけ体を反転させて、視線だけを俺に向ける。
疑惑と少しの戸惑いの色を浮かべた彼女の目には
あの時の人は? と、俺に対する不信がありありと浮かんでいた。
――当然か…
キスしといて 『彼女はいない』なんて、きっと理解できないのだろう
「……あの時…あの人から
ああすれば、諦めてくれるって言われたから…」
俺の心を突き刺すような視線に言葉を続けるのを臆するが、
途切れ途切れに言葉を繋ぐ。
『加那』のこと
どうするのが最善だったか分からないが
あの時の俺にはあれが最善だった。
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