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彼女が乗るバスの大体の到着時間が分かったあの日から、
俺はそれに合わせて駅に着くよう、家を出るようになった。
――けどなかなか『偶然』てのは難しい。
毎回植え込みに座って待つのも『いかにも』なので、
偶然を装い連絡ブリッジをゆっくり通り過ぎる。
…やってみて思ったが、
バスが早く着いたり遅く着いたりするし、俺が連絡ブリッジを通り過ぎる、
およそ1分の間に彼女と『偶然会う』のはとても難しい事だった。
ほとんどの日がタイミングが合わなかったが、
その中でも何回かは『偶然』が成功する時もあり、
自然と顔が緩んでしまう自分を気付かれないように素知らぬふりを装う。
一度だけまた植え込みに座って
一緒にカフェオレを飲むこともあった。
そんな苦労して『偶然』会っても、
やっぱり、会社のある駅の改札まで来ると
先に行って と言われ近づかせて貰えない。
その度に心がギシリと軋んだが、
彼女を困らせたくなくて言う通りにした。
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