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「ッ――― 柏原さん ! !」
大声で名前を呼ばれた彼女は動きを止め、後ろを振り返った。
駆け足でタクシーに乗ろうとする彼女に近づき、真横に走りこんで頭を下げる。
「ごめん、
このタクシー、譲って欲しい …!! 」
「 え 」
彼女は訳が分からず困惑しているが、こちらも必死で言葉をつなぐ。
「非常事態なんだ、どうしても急いでて…」
必死の顔で言ったその言葉に、彼女はタクシーから一歩下がり
「どうぞ」
「え」
「乗ってください
役所に行くんで私は何とかなりますから」
そう言ってもう一歩下がり、ドアの前を空けた。
「ありがとう」
早々にお礼を言い、タクシーに飛び乗り行先を告げた。
タクシーが動き出したところで、シートから後ろを振り返って見た彼女は、
姿が小さくなるまで俺を見送ってくれていた。
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