『水妖精の医者』

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「はぁ……来客を知らせるための仕掛けなんですけどね~~」 ベルは花の形をしたオブジェクトを見てつぶやいた。 来客が来たらこのオブジェクトからチリチリーンと音が鳴るのだ。 「別に誰も来ないし」 先生はハンモックに寝転んで漫画を読む姿勢のままそっけなく返事をする。 (先生謝ったわりには漫画を読み続けるんですね) 「先生は本当に医者なんですよね~?」 「あぁ、名はクラル・セラピア。紛れもない医者だ」 ページをめくる手を休めずまたそっけない返事。 こちらを見ようともしない。 「先生こっち向いてくださいよー」 セラピアはチラッと漫画から顔を覗かさせベルを睨む。 「だるい。あとうるさい。今『ブリッチ』読んでるし。あっち行け。シッシッ!」 「………なっ!(イラッ)」 (くそう……また「ブリッチ」ですか……。) 『ブリッチ』とは主人公の『旨杉一護』(うますぎいちご)が死神の力を手に入れて『マサイ』と呼ばれる怪物と戦う話である。 (寝巻きのまま漫画読んでるなんて、とんだニートですね) ゴロゴロと漫画を読んでるセラピアが動く度にダルダルのパーカーを着た彼女の大きな胸が揺れる。 ボヨンボヨン (…………反則でしょ……あれは) 自分の胸の地平線を眺め、何とも言えない敗北感に包まれるベルであった。
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