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「幼稚園児の頃に、組のみんなでこのゲームしたんだよ。なんの順番か知らないけど私が最後で、もうネタなかったわけ。で、その時に私はなに作ったんだっけかなぁって。思い出せないんだよね」
「石ころとかおせんべいとか?」
「多分違うと思うけど…」
自分のことのように悩む隣の男に、思わず苦笑い。
始めたばかりの仕事に疲れているだろうに、帰り道でばったり会った人間に引きずられてここまできてしまったり、どう考えたって自分には関係ないだろうくだらないことを一々真剣に考えてしまったり。
この男のこういう馬鹿なところが、私は実は結構好きだったりするのだ。
本人には、言えるはずもないが。
このままだと埒があかないんだろうなぁとまた笑って、私は話を少しだけそらすことにした。
「あんただったらさ、なにつくる?」
想像通りきょとん、と丸まる瞳。
やっぱりまた真剣に考えてるんだろう彼は、唸りながらまた軽くブランコを漕ぎ出した。
ぎぃ…ぎぃ…と数回軋む音がしたと思ったら、勢いをつけて地面へと飛び降りる。
「よっ、と。……そうだなぁ…」
呟きながら遠退く背中を見送り、戻ってきたときに手に持たれていた私の靴にお礼をひとつ。
そのままなにかの物語のように跪いて靴を履かされ、あまりのらしくなさに呆然としてしまった。
緩んでしまっていた蝶結びまできっちりと直すと、友人はにっこりと笑って、歌い出す。
ぐーちょきぱーで
ぐーちょきぱーで
なにつくろう?
なにつくろう?
「みぎてがぱーで、」
柔らかな低い歌声に聞き惚れていると、ひらり目の前で振られる大きな手。
「ひだりてもぱーで、」
次いで指差されたのは、鎖を掴んだままだった私の左手。
意図が全く掴めず反応出来ないでいると、ゆっくりと目の前の人物は立ち上がり、その大きな手を俺に差し出した。
「…帰ろ?」
にぱり、笑う友人に幼い頃の記憶が重なる。
今よりもずっと高く、拙かった自分の歌声。
小さな手を懸命に動かして、そうして最後に作ったものは。
『ぐーちょきぱーで、』
『ぐーちょきぱーで、』
「………うん、帰ろ」
end
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