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俺が息を整えてる間、竜一が口を開くことはなかった。なんだか、勢いに身を任せて言いたい放題言ったせいなのか、気まずくなって広場の方に体の向きを戻す。
微かに見える炎の灯りを見ながら、隣の奴に向けて呟く。
「……変な言い方だろうけどよ。お前の母親が自分の体のことを知った上で、家のためになろうとしたのは自分の出来ることを諦めてなかったってことなんじゃないのか?」
「………………」
「正直、凄いと思う。運動もままならない体でそんな風に思える人はそういないだろ。自棄になってたわけでもないようだし」
もちろんこれは俺の勝手な考えだ。ただ、竜一の母親の話をする声質は、父親の時とは柔らかさが全然違った。
それだけで、良い母親だったってことがよくわかる。
だから、その息子である竜一に向けて、心の底から、
「そんな人の息子であるお前が、そんな人の愛情を受けたお前が、簡単に諦めてんじゃねぇよ。
周りの目が気になるなら、とことん成長して見返せば良い。父親に不満があるなら、胸張れるまで強くなってから、思いっきりぶちまけてやりゃいいだろ」
「……っ……」
竜一は俺が言い切ったのと同時に大きく肩を震わせた。それから、またゆっくりとした動作で、広場の方を向く。
そして、
「……うだよな。こんな姿、母さんにも兄貴にも見せられないよな……」
辛うじて聞こえる音量で呟いた直後、バシンと両手で頬を叩いた。
呆気に取られる俺の視線の先、竜一は口の端を僅かに吊りあげる。
「にしても、理想論過ぎて反論する気にもなんねぇよ。甘いったら呆れて物も言えない」
「……わ、悪かったな! どうせ俺は世間知らずだよ!」
「けど……」
咄嗟に言い返すと、竜一は確かに笑みを浮かべて俺に顔を向け、
「理想論だけど、俺も本当にそう思う」
それは、多少なりとも吹っ切れたような清々しい口調だった。
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