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……いやいや、歳の差もあるし、竜一は水沢だろうし、流石にそれはねぇな。
いくら、若く見えるからって。そんな馬鹿な。
「さてと、洗い物済ませちゃうから、のんびりしててね」
と、俺たちに告げて、母さんは立ち上がって台所に向かった。竜一の視線は……その背を追ってる。
聞いてみよ。あくまでも遠回しに、遠回しに!
「……お前って、俺の母さんには敬語なんだな。普段は何とかッスとか言ってんのに」
「そりゃあ、尊敬に値する人には、正しい言葉をな」
そんな風に答える竜一に、何か誤魔化した様子はない。尊敬か、そうだよな……。
……じゃあ、普段何とかッスを使われる和樹さんは尊敬に値しないということに……?
うわ、竜一の裏の黒い面が明らかに……。
とか、何とか邪推してると、不意に母さんが振り向いて来た。
「そうだ。あーちゃんまだ起きてないのかな。降りてきてないけど……」
飛鳥が? こっち来てからも俺らより早く起きてたから、てっきりもう朝飯済ませてるかと思ったんだけどな。
確かに、今日は一度も見てない。
「ちょっと、見てくる」
「あ、ごめんね。お願い」
立ち上がりながら母さんの要請を受けて、階段を上がっていく。二階に到達し、そのまま進んで最初の部屋。もともと兄貴が使ってた部屋の前に立つ。ここにいるはずだ。
「お~い、飛鳥起きてるか?」
数度ノックをしながら問いかけてみる……も一切返事なし。
寝てんのか? いやでも、何か……人気がないように感じる。
ちょっと悪いと思うけど、
「……入るぞ」
ドアノブを捻って、こちら側に引く。まず目に入ったのは、すでに整理されて、鞄に詰められた荷物だ。
どうやら、飛鳥は昨日の内に荷物整理を済ませたらしい。
けど、それだけ。当の飛鳥の姿がどこにもない。
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