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ルミネが宿に戻ると入れ替わりにカイが居なくなっていた。
「…」
探さなくてもいつか戻って来るだろうが、暇潰しに探してみることにした。
いつもなら教会に閉じ込もっていたルミネだが今日は外に出ることに躊躇いはなかった。
陽が昇った街を駆ける。
なんて気分がいいんだろう。
今なら苦手な人との付き合いも無愛想もなんとかしようと思える。
そんな気分で街を走っていたら港まで来てしまった。
戻ろうとすると人の声がする。
――…歌?
ルミネは気になって歌声の主を探した。
そこには自分の探し人が海を見ながら堤防に腰掛け歌っていた。
その声は澄んでいて、何故か泣きたくなるほど切ない。
歌っているカイは笑っているがどこか陰があった。
「――♪~♪~~…」
ふいにその声が止む。
どうしたのかと顔を上げるとカイがこちらを見ていた。
そのまま走って立ち去ろうとしたがカイに呼び止められる。
カイの側まで行くと目で堤防を指して一言座れ、と言った。
おとなしく従うとカイは小さくため息をついてこう言った。
「…なあ、ルミネはこの世界が好きか?」
一瞬何を言っているかわからなかったがその質問の意図を知るとどうしても答えることができなかった。
「…俺は嫌いだ。俺を罪人と罵り拒むこの世界が」
「…」
「だから、逃げるのはやめにしたんだ」
「?…どういう事?」
意味が理解できていないルミネにカイは微笑んでゆっくり話した。
「俺は海を見るのが好きなんだ。この広い海を見ると自分がいかにちっぽけなのかよくわかる。それで自分の存在を馬鹿らしいと思うようにしてきた」
「…。」
カイは続ける。
「でも気付いた。それは逃げでしかない。現実から目を背ける事で必死に自分から逃げてきた。でもそれじゃ意味が無い。現実に立ち向かわず、ただ自分を憐れと思い世界を恨むのは馬鹿げている」
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