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「…」
ルミネは何も言わずにただカイの言葉を聞いている。
カイは淡々と続けた。
「自分から行動しないと世界は変わらない。自分にとって嫌いな世界でしかない。俺はそんな世界で死ぬことも老いることもない人生を送るのは嫌だったんだ。この世界が少しでも自分にとって暖かくなるように、そう思って始めた旅だったんだ。」
「…。」
「けどやはり世界は厳しいな。この旅を始めて20年は経つがやはり罪人だとわかると皆が恐れる。だがただ一度だけ人に受け入れられたことがあるんだ。」
「!…本当に?」
「ああ。まあ、ソイツは人の部類でも変な部類のヤツでな。いわゆるマッドサイエンティストだった」
「…。」
「だがソイツは俺が罪人だと【フシ】だと知っても俺に接してきた。だから聞いたんだ。俺が怖くないのか?と」
「…その人は何て言ったの」
「貴方が罪人だろうが【フシ】だろうが僕には関係ない。君は僕の親友だ、そう言った」
「…!」
「その時俺は思った。ああ、この世界はまだ俺を見捨てなかった。そう思ったらなぜか少しだけ憎くて仕方ない世界が好きになれたんだ」
「…その人は」
ルミネがそう聞くとカイは黙った。
事を察してルミネが謝ろうとしたらカイが急に喋った。
「…ソイツはなんて言うか研究命だがこの俺の親友だ、大丈夫だ!」
やけに気合いを込めて言うカイにそういう意味じゃないんだけどと言いたくなったがルミネは口をつぐんだ。
カイはひどく嬉しそうだった。カイはこうも言った。
「ソイツはけっこうツテの多い奴でな、俺に仕事を紹介してくれたんだ」
「仕事?」
「ハンターだ。ちゃんとギルドにも登録してあるから金ももらえる。ルミネも登録したらなれる。言っておくが俺の信念は働かざる者食うべからずだ!ちゃんと働いてもらうぞ」
何故かカイは輝いて見える。ルミネは呟く。
「…来るかな。」
「ん?」
「…私もこの世界に生きてて良かったって思える時が来るかな」
ルミネはうつ向いて話す。
「来るさ。俺と一緒に行こう」
「クサイ台詞ね。うん。」
ルミネは大きく頷いた。
朝日を浴びて海が輝いている。
「ねぇ、さっきの歌は何?」
「ああ、あれは讃美歌だ。この世界へ祈りを込めて」
「お祈り…届いてるといいね」
「そうだな」
二人は暫く海を眺めていた。
広い海をずっと、ずっと。
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