ユートピアは現実に

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 記録は保持者の功績を讃える為にある。保持者の長きにわたる人生の中で、光輝いていた瞬間を写真のように収めるものだ。保持者は賞状という名の紙切れ一枚と、金メッキのトロフィーをみて慢心する。  しかし、人類にとって記録は、流れ星の朽ち果てていく輝きでしかない。記録は塗り替えられる為にあるようなものだ。それが、人類にとっての発展だ。  ここで、疑問が生じるのだけれど、過去現在の人間たちが一瞬の輝きの為に生涯をかけて精進するのにも拘らず、どうして差が出てしまうのか。どうして、記録は更新されてしまうのか。  技術や科学の発展と比例して、記録も上書きされていく。  だけれど、ここ数年の飛躍は異常だ。人間の構造では説明が付かない数字が出されていく。スポーツでは、顕著に表れている。  男子陸上百メートル走――五秒三七。  男子陸上幅跳び――二十二メートル。  サッカープレミアリーグ、一選手の去年のゴール数――二三四ゴール。  経済界では僅か二十四歳の若者の資産二兆三千億。文学界では多くの賞を受賞した奇才が現われ、数学では全ての八大問題が全て解かれた。  たった数年の出来事。  進化と呼べるのではないだろうかと科学者は口を揃えて言うが、それは違う。功績を収めた偉人たちは全て三十未満の若者だが、数年前までは普通の若者だった。廃れた生活を送る者もいた。中には、事故で足が不自由になり、自らの意志で立つ事すら叶わなかった青年が、陸上短距離でこの記録を出した。  地球は回っている。  留まることを知らない。  人類も同様、高みに昇り続ける。  しかし、段階を飛ばし過ぎている。  これはもう明らかに、第三者の介入があるに違いない。  ――もし。  第三者が力を与えたとしたら?  夢や理想や希望が実現してしまうとしたら? **  園嵜リョウには誇れる自慢の姉がいた。園崎蜜柑は、リョウが近所の悪がきに虐められている時に必ず現れ、救ってくれた。リョウにとって画面から出てこない戦隊ヒーローよりも、漫画の主人公よりも、蜜柑こそがヒーローだった。  また虐められ、落ち込んでいると蜜柑が隣にやってきた。そして、静かに口を開いた。 「特別に教えてあげえる。私たちのいるこの世界はね、リースが創った世界なの」
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