前川雪の孤独

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前川雪の孤独

さっき金曜日の六限目に帰ると言ったがそれ以外の曜日は放送部の長谷川の手伝いをしている。 俺は中学ではハンドボールでは無く野球をしていた。彼とは知り合いだった。 長谷川は中学でも放送部の下っ端で俺の野球部の部長のいとこだった。部長はミステリアスなイケメンで何故か長谷川の手伝いをするよう俺に言った。 「面白い奴がいるんだよ」 そして昼休みにちょくちょく放送の手伝いをするようになった。長谷川は顔が地味な奴だが実際面白くみんなを笑わせていた。野球以外に楽しいことがあるんだなということに痛感した。 長谷川は今でも会うが前より大人てきた気がする。彼女でも出来たのだろうか。俺は昔の長谷川のほうが好きだ。 「鳥~帰ろうぜ。何つっ立ってんだ今日は放送部無いんだろ?」 ズボンに手に突っ込みガムらしきものを食べている。 「ぎゃははは」 口の大きいせいか歯並びがよく見える。 「難しい本読みすぎなんじゃねーの」 足が細く頭も小さい。最下位で前川雪とは張り合うことは到底無いだろう。 こんな友人囲まれて俺は幸せだ。低レベルなことを笑っているときが落ち着く。 「その通りだよ。でも胸騒ぎがするんだよ」 言葉どうりドキドキしていた。 「大地震予知か?鳥」 「これなら警報知らずだね誠也」 「恋だな」 「適当なこと言うなよ。身近な場所で何か起きそうなんだよ。俺先に帰るよ」 走っていった。途中で気付く上履きが無いことを。持ち帰ろうと思っていた。前年度の終わり大して汚れていないと考えていたが今日担任に注意されたのだ。 「仕方ない戻ろう」 来た道を戻り、雨上がりの地面には足跡がついた。ハンドボール部と野球部の経験のおかげか速く走れた。 「お、どうした」 「具合でも悪いのか」 「いや、ちょっと…」 上履き程度のことは話したくなかった。 教室に戻ると案の定電気は消してあり暗闇の中カーテンが揺れていた。上履き袋を取ると学生カバンを肩にかけ直した。 「さ…さ…」 暗闇から声がした。ビビりはしなかった幽霊なんて嘘に決まってる。それにしてもおかしい。影が動くのがはっきりわかる。そうか今日は満月だ窓から光がこぼれている。 「僕…ずっと独りで…これからも独りなのか…爽花…どこにいるんだ」 微かなうめき声。それは行為中であることは明確だった。 鳥取誠也は震撼した。俺の理想像は簡単に崩れ落ちた。
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