1人が本棚に入れています
本棚に追加
5
20■●年。今や、受話器や、テレビから音だけではなく匂いも出る時代だ。受話器の向こうで、料理をしていれば、その料理の匂いが相手の受話器まで伝わり、テレビに映っている物の匂いもそのまま出てくるので、テレビに薔薇が映れば部屋に薔薇の匂いが漂う。
ジリリリリ! 電話が鳴りました。この番号は僕のマドンナの雪紗さんからだ。
「は、はい。もしもし。僕です。道下です」
「あ、道下君? ちょっとお話があるんだけど……」
も、もしかしてこの展開は? ムフフな展開ですか?
「……。道下君、何食べたの?」
「え?」
「何か臭うよ?」
「ま、まさか。僕の部屋に漂っているゴミの悪臭が受話器の向こう側に届いたのか? それとも僕の口臭?」
や、やばい。
「ス、スパイシーな香りがするね」
「え、う、うん。部屋に服を干しているからその生乾きの臭いかも」
焦る僕。
「で、話って何?」
心臓が口から飛び出るよー。
「う、うん。たいした用事じゃなかったから、やっぱ今度にするね」
「え? ちょっと、雪紗さん?」
ガチャ!
切られた。
そんな、告白されようとしたのに、臭いで振られた? 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なー。
僕は頭に虫が湧いて、テレビを点けた。
交通渋滞の様子が映し出された。
ゴホッ、ゴホッ。排気ガス臭え。チャンネルを変える。
動物特集をやっていた。スカンクが映し出された。
ま、まずい。しかし、とき既に遅し。スカンクがガスを放ち部屋にその臭いが充満した。オエッ、オエッ。
チャンネルを変える。
司会者がガスマスクをして言った。「この場所に有毒ガスが発生している模様です」
僕死んだ。
最初のコメントを投稿しよう!