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「…おい、チビ。お前、また時間外労働か?朝っぱらからご苦労なこった」
部屋に入るやいなや、血塗れの少女の姿を見てそう言い放ったのは、和服の男だった
和服の男は椅子を引いて、少女の隣へと腰を下ろす。長く切り揃えられた黒い髪が、その動きに合わせて揺れた
おはようございます、と笑う白衣の青年の言葉は無視して、和服の男は少女を見下ろす
「夜通しの拷問は楽しいか?」
「…仕方ないじゃないですか。きっとあの方、自白なんてしませんよ。元より、何の情報も知らなかった可能性が高いです」
「だから、拷問時間を稼ぐために残業か?あの女を楽にするために」
「…早く終わらせたかっただけですよ。楽になりたかったのは、私です」
「じゃあなんで奴の声帯を潰した?」
「…悲鳴がうるさくて」
「嘘だな。奴がでたらめを喋って延命しないように、だろ?」
和服の男は頬杖をつきながら少女を見下ろす。少女はしばらく黙っていたが、ひどく緩慢な動作で男を見上げた
「…ええ、その通りです。スパイ容疑がかけられた以上、あの方は死ぬしかありません。それが例え冤罪でも、です」
「なら、いっそ、早く死んだ方があの方のためなんです。余計なことを喋れば、喋っ
た分だけ生きながらえ、拷問を受けることになるんです」
「私は偽善者です。でもわたしは、こうするしかない。こんなことしかできない。私は、拷問人なんですから。」
わたしは、間違ったことをしましたか?
そう問いかける少女に、男は
お前はまだ、正しくありたいのか?
と返す。少女はなにも答えない
もうすぐ朝食ができますよ
そう笑う青年に、男は
お前の笑顔は胡散臭いことこの上ない
と返した。
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