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放課後、学校の裏庭。
「前から良いなって思ってて……」
この雰囲気、この台詞。
「気付いたらいつも目で追ってた」
目の前には、見慣れない隣のクラスの男子の姿。
「もし良かったら……」
──あ、駄目だ。来る。
「俺と付き合ってほしい」
「ごめんなさい」
その間、僅か一秒。
目の前の名も知らない男の人は、状況を理解出来ていないのか呆けている。
そして、瞬きを一回。
瞬間、目が合う。
私はにっこりと笑ってもう一回。
「ごめんなさい。じゃあさよなら」
踵を翻し、私は足早にその場を去った。
───佐倉 舞桜、16歳。
この春高校生になり、それなりに充実した毎日を送っている。
ただ、私には一つ悩みがあるのだ。
「佐倉さん」
……いや、訂正しておこう。私には二つ悩みがある。
一つは、私は男の人が苦手ということ。正確に言えば、異性に好意を向けられるのが恐くて堪らないのだ。
そして、もう一つ。
「佐倉さーん、聞いてる?」
それが、今私の目の前にいる彼。
「……聞いてますよ。何ですか?千秋先輩」
色素が薄いのか、自然な栗色の綺麗な髪と瞳。
憎らしい程に整った顔立ちに、私より頭二つ分くらい高い男───高瀬 千秋先輩。
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