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【…人間、おらが、見えるか…】
巨人が空気を震わせるような声を出した。太鼓が轟(とどろ)くような声だ。
「…!」
桃瀬は頭上を睨みつけた。
デカい。真下から見上げると、山のように巨大だった。
【おらが、見える、人間…。さぞ旨かろう…な…?】
巨人は口元を下弦の月のように細めた。嗤(わら)ったのだろう。
桃瀬はぞっとした。
「…くっ!」
桃瀬は走りだした。
中学時代から4年間、陸上部で鳴らしたスプリンターだ。
脚のバネを効かせてスタートダッシュを決めると、神域である自宅の方向に向かう。
【逃がさぬよ…】
巨人はのっさりとした動きでついてきた。
素早さはないものの、コンパスが違う。中々距離が広がらない。
どしーん。
どしーん。
地響きだけが、桃瀬の後をついてくる。
「…っ、はぁ、…はぁ」
駅前の喧騒を走り抜けると、そこは農閑期の田んぼが広がる平野だ。
僅かな住宅地を抜けると、あとは自宅の神社まで2kmほど、遮るものが何もない。
桃瀬は、住宅の塀の陰でいったん立ち止まると、息を整えた。
その時。
「やっと見つけたよ、桃。元気だったかい?」
「…?!」
頭上から嬉しそうな声がした。
見上げると、電線の上に、人影が3つ。
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