一之巻.一ツ目

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「勇(いさみ)姐さん、本当に桃かよ…?」 「あたしが桃を見間違う筈ないだろ、信用ならないってのかい、智(さとる)?!」 「いや、だってよ…」 勇(いさみ)と智(さとる)と呼ばれた2つの影が言い争っている中、もう1つの影が目の前に降りてきた。 「我々の姿は見えているようですね。 貴方が本当に我らが探し求める桃太郎の末裔ならば、多少育ち過ぎているとはいえ、一ツ目ごとき一撃でしょう。 さぁ、参りましょう」 優しい目をした青年だった。 真っ白い柔らかそうな髪を長く伸ばし、アオザイのような変わった衣服を身につけている。 青年は穏やかに微笑むと、桃瀬に手を差し伸べた。 「…は?どこに?」 「仁(ひとし)、てめぇ、何先走ってんだよ!」 智(さとる)と呼ばれていた影が、その様を見て慌てて降りてくる。 真っ赤な短髪をツンツン立て、耳には金色のピアスをたくさん付けている。 上半身は裸に毛のベストを羽織り、ジーンズの裾をブーツインしている。 「あんたたち、本当にいい加減にしとくれ、桃が困ってるじゃないか!」 勇(いさみ)が呆れ顔で二人の間に割って入る。 両肩と両サイドに深いスリットの入った、セクシーなデザインの着物を着ている。 背中を深く抜いて、帯は飛び立つ寸前の鳥のように華やかに結んである。 黒髪を高く結いあげ、目元に紅を注した婀娜(あだ)っぽい美女である。 「桃だろう?」 勇が桃瀬に微笑みかけた。 「…はぁ、多分…」 桃瀬の愛称は「桃」ではあるが、目の前の3人に見覚えはない。 【みつけた…】 混乱している内に、巨人が住宅の陰から彼らを発見し、にんまり笑った。 「…一ツ目ごときが、うるさいねぇ。今取り込み中だよ!」 勇が睨みつけると、巨人の足元のコンクリートが盛り上がり、黄金の蛇になって一ツ目の足に絡みついた。 【う、うぉお…まさか、守人か…?!】 巨人が慌てて逃げようとする。 「逃がさねぇよ」 智がニヤリと笑うと、どこから取り出したのか、大振りの剣を握って後を追う。
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