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「…でも俺、昨日あんたの声聞いたんだ。」
“どんな?”
「『たすけて』って。あんた、倒れる前に確かにそう言ったんだ。」
そんなはずはない。
私の声は、私が中学生の時以来一切出たことはない。
必死に声を振り絞っても、ただ掠れた息が吐きだされるだけで。
だけど、彼の瞳を見れば嘘をついてないことなんてすぐにわかる。
――ささやかな、神様からのプレゼントだったのだろうか。
「……あんた、名前は?」
“伊藤千晃”
「千晃、な。俺は、西島隆弘、よろしく、な。」
“よろしく、西島くん”
「…西島くんじゃなくて、隆弘で、いい。」
コクン、と頷くと、ドアの向こうから「にっしー!」と明るい女の人の声が聞こえてきた。
「…お前も、来い。」
隆弘はそう言うと、私の手を掴んで部屋を後にした。
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