一寸先は闇

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私は明石からの依頼を受けた。仕事があったが友人からの頼みだし、人生で一度かもしれない結婚式の祝辞に私を選んでくれたのが嬉しく思ったからでもあった。  明石から電話があった翌日、私は家から飛び出した。今日は原稿わ仕上げる気は更々なく、ある目的のため、今日一日をつぶすことにした。  その目的とは古本である。年に一度、家から遠く離れた公園で古本市が行われる。様々な古書店が軒を列ねるその行事は逃す訳にはいかなかった。  電車の乗り換えを繰り返し、タクシーを拾い目的地の公園に向かう。現在時刻は朝の九時だ。古本市は正午から始まる。急がないと沢山の人の波に呑まれることになるだろう。早めに着き、会場に立地を確認し、スムーズに進む必要がある。  三十分ほどして公園に着いた。既に沢山の人が集まっていた。彼らも私の同じく古本を愛し、求める同じ志を持った者達であり、また古本を巡る敵同士である。  正午前になると、公園には予想以上に人が集まった。去年はここまで多くはなかった。  不思議に思いながら周囲を見渡すと、私の傍らにいた学生が「知っていますか?」と話し掛けてきた。大学生のようで、背中には冒険家が背負うような大きなリュックを背負っている。今にも戦地に赴くようなそのいでたちには風格があった。  「今回の古本市、前回とかなり違うみたいですよ」  「違う?何が違うというのです?」  「幻の古本がこの古本市に現れるという噂が昨日ネット上にながれたのですよ。この人達もその噂を聞きつけたのではないでしょうか?」  私にはネットというものがどうにも性が合わないので、いままであまり触れたことがなかった。よもやそんな噂が流れていたとは知る由もなかった。  
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