一寸先は闇

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 私は駆け出しの作家である。自分で書いた小説で生計を経てている。  元々文章を書くのが得意な質であったし、人話す事が大の苦手で、なるべく人と話さず、自らの才能を活かせる職は何だと考えた時、作家という職が頭に浮かんだのが始まりだった。  三十路でデビューし、一度も女性との関係を持たない純粋男の華やかなデビューは一世を風靡するかと思っていたが、私の思いと反して日常生活に大きな変わりは無かった。  新聞に小さく顔写真と載っただけで、一向に話題に上がることが無かった。  新聞に載っていた私に気づいた友人の一人が電話してきたが、「おめでとう、やっと職に就けたな」と私を馬鹿にしたように賛美しただけだった。後にも先にもおめでとうと言ってくれたのは彼だけである。  もうすぐ作家人生一年となるが、私の生活は一年前と大差ない。仕事で小説の連載などが来ては小説を書き、書き終えたら日常に戻る。雑誌の取材や、テレビの出演依頼なども来ず、果たして私はホントに作家なのかと思う事さえある。  しかし書店に行くと、売れた気配を感じない私の本が積まれているのを目にし、「一応作家なのだな」と自覚する。  これまで四冊の小説を書いたが、どれもあまりいい売れはせず、ただの一度だけ、デビュー作が一度重版しただけだある。    
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