1人が本棚に入れています
本棚に追加
担当編集者から電話があり、近所の居酒屋だ酒を飲み交わすことにした。打ち合わせということだったがあまり意味がなさそうだ。
店の奥の個室に行き、差し向かいで飲み始める。私の担当は新人の佐藤真一という男だ。編集者としては一年目らしい、その意味では私と同じである。佐藤はあまり私の小説に対して意見は言わない。なのだ私は佐藤に対して信頼を抱いていない。
「先生、新作の調子はどうですか?」
佐藤は私を先生と呼ぶ。もしかすると、作家はみんな偉大と勘違いしているのか、ならばすぐにでも誤解を解かなくてはいけない。
「順調。一度は言ってみたい言葉だね」
「先生は手書きで書いているのですから早速書かないと間に合いませんよ?」
「うん、解っているよ。しかし一向に筆が進まない。まだ文字わ習っていない子供ようにどうしたらいいか解らない。原稿用紙が一体何をする物か解らない時がある」
枝豆を摘み、麦酒を飲む。佐藤はまたか、という表情で冷奴に醤油を垂らす。
「それスランプですかね?どんな作家にもあると聞きますが」
「いやこれはスランプではないね。ただ私に才能が無いだけだ。今まで書いた作品はどれも売れないし、評価もされない。潮時かもな」
「まだ一年じゃないですか。慣れていないだけですよ」
「そうだろうか?でも作家って慣れで出来るものなのかな?物語を作るのに慣れは必要なのだろうか?」
麦酒が無くなり、店員に追加の麦酒を注文する。メニュー表を開き、酒の肴を探してみるが、これと言ったのがない。今食べている枝豆で済ますことにした。
最初のコメントを投稿しよう!