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佐藤は鞄から手紙の束を取り出した。それを私の前に置く。手紙の宛名には私の筆名が書かれていた。
「これは?」
「ファンレターです。もっと早く見せるべきだったのでしょうけど」
「なんと、私にも届いていたのか。たまげたな」
手紙を開き、中にある便箋を取り出す。内容は私の小説に対する感想だった。二十枚ほどはある手紙を読み、私は嬉しさと同時に虚しさを覚えた。
全ての手紙には一応に感想が書かれていたが、どれも子供が書いた感想文のようだった。私の小説で何かが変わったとかはなく、ただ一冊の本としてしか見られていなかった。人の心を動かしたいと考えて書いた小説は誰の心にも届いていなかった。
「佐藤君。私の小説は読んだよね?」
「え?はい、先生の担当ではありますし、全部拝読いたしました」
「どうだった?私の小説は?」
「どうだったって?」と佐藤は一度考えるように天井を見つめた。「面白かったですよ」
「そうか」と私は小さく呟いた。同時に注文した麦酒が来た。私はジョッキを口に運ぶ。嫌に乾いていた喉が潤されるのを感じ、私は佐藤にまた嫌気を差した。こいつは私の才能、私の小説をを読んでも何も感じないのである。
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