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打ち合わせを終え、佐藤と別れると私は帰路につく途中で見掛けた屋台に入って、また酒を飲んでいた。その屋台はおでんを置いていて、店主が時折おでんの具の様子を確かめていた。
私がおでんを食べていると、屋台の暖簾をくぐり、人が入ってきた。その人は私の傍らに座り、熱燗と油揚げを注文していた。私横目でその人を見た。そして思わず固唾を飲んだ。
その人物は狐面を被っていて浴衣を羽織り、暑そうに団扇を扇いでいた。
「やぁこんばんわ。屋台で隣に人が座っていたのは初めてですよ」とその人物は話し掛けてきた。狐麺を被っているから年齢はよく解らないが、声音からして私と同い年か、上の年齢だろう。
「私も初めてかもしれない」
「私は大葉一葉と申します。まあ本名ではありませんが」
大葉さんはケラケラと笑い肩を揺らした。大葉さんの前に熱燗と数枚の油揚げが置かれた。大場さんは狐面を少しずらし、口元を出し、油揚げを口に運び、美味しそうに食べた。
「私は鳥山雛と申します、本名ではありませんが」
「雛さん。可愛らしいお名前だ。失礼ですか雛さん。貴方、『永久の調べ』の作者さんではないですか?」
『永久の調べ』は私のデビュー作である。
「そうですが」
「ああ、やっぱり。いやお逢いできて光栄ですよ」と大葉さんは熱燗をお猪口に注いで言った。
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