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「読みました貴方の作品。今では珍しい作品だった。芥川龍之介の再来かと思ったものです」
大葉さんは酔っているのかそんな事を言い出した。熱燗は酔いが廻るのは早いと聞く。
「そんな大層な作家ではないですよ。酔っているのですか大葉さん?」
「そうだな、酔いが回って来たかもしれない。だが先ほどの言葉に偽りはない。貴方は素晴らしい作家だ」
大葉さんは油揚げを食べ終えると更に油揚げを頼んだ。これで何枚の油揚げを食べたのだろうか?
「そういってもらって光栄です。しかし、今新作の小説がまったく書けない。自分が作家にホントに向いていたのか疑問の思えます」
「書けない時も勿論あるでしょう。芥川龍之介も、夏目漱石も、宮沢賢治も、村上春樹も、長い間書けない日が続くことがあった。読み手から高い評価を受けようと、誰かの心を動かさないと、そう強く考えるあまり、思いが空回りしてしまい、思うように小説が書けない」
大葉さんの言うことはよく解った。確かに、私は誰かの心を動かしたくて小説を書いていた。これまで書いた四冊の小説も、空回りの上生まれた作品だから、誰の心も動かせない。
卵を行儀悪く箸で突き刺し、強引に二つに割った。歪な形に割れた卵は、私の心を象徴しているようだった。黒く黄ばみ始めた黄身が、私の今を表しているようで、気味が悪くなる。心を溶かすようにおでんの汁に黄身を溶かした。
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