1.最後のキャッチボール

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野球部室のぼろいドアを開き、部室内に黒坂が入る。 いつもは練習用具で散らかっている四畳半の部室は綺麗に整理されていた。 「西野か」 部活前に部室に来てはいつも几帳面に部室を掃除する奴。この様子はあいつに間違いない。 今日も掃除したみたいだな。 そんな部室の床に目を移すとそんな綺麗な床に西野が寝転がっている。驚きというより恐怖に近い感覚に襲われ半開きの口を閉じれなかった。 さすがに奴が倒れているとまでは考えもしなかった。 「おーい、西野生きてますかー」 黒坂は西野の体を揺する。 急に体を揺すられた西野は、はっとして目を開けて、驚いた表情で黒坂と顔を合わせる。 ぼさぼさの髪に一重の大きな目に突き出るような顎、元から冴えない顔をしてる西野は寝起きで更に冴えない顔だった。 あまりにも派手に充血した西野の目を見て、黒坂は渋い顔をする。 「な……何してたんだ?」 黒坂は静かに聞いた。 「ああ、昨日徹夜で勉強したから眠気が残ってて……。部室掃除終わったらつい寝ちゃったんだよ」 と西野はあくびをしながら応じる。 「西野も大変だなー」 ほぼ棒読みに近い黒坂の言葉に西野は曖昧な笑いで返す。 「ところで、黒坂はここに何しに来たんだ?」 西野は穏やかな声で聞いた。 「ああ、そうだ。バット取りに来た、あの黒いやつね」 黒坂は辺りを見渡しながら言った。 「ああ、分かった、あれね。あのかごの中に入ってる」 西野は部屋の隅にある大きいドラム缶のようなかごを指さす。 黒坂は黙ってそこに向かい、目当ての物を取り出す。 「練習は? 今日参加するのか、西野?」 「当たり前だ。今すぐウェアに着替えて向かう」 「OK。待ってる」 とだけ言い、黒坂はグラウンドへと走り出した。
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